大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(う)5095号 判決 1952年4月17日

控訴人 被告人 梅沢三代司

弁護人 上村進 外一名

検察官 軽部武関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、末尾に添附した弁護人上村進、同牧野芳夫連名並びに被告人の各控訴趣意書のとおりである。

弁護人上村進、同牧野芳夫連名の控訴趣意第二点について。

原判決が適用した昭和二十三年七月七日法律第百十号地方税法第七十五条第一項が入場税は演劇、映画若しくは観物(すもう、野球その他の競技で公衆の観覧に供することを目的とするものを含む。)を催す場所、競馬場、展覧会場、遊園地その他これに類する場所への入場に対して、これを課すべきものとしていることは所論のとおりであるが、同条項の場所をもともと演劇等を催すことをその本来の目的とし、従つてそのための施設を持つている場所に限るものと解すべき理由は何ひとつなく、却つて同条項の立法趣旨並びにその文言に徴すれば、いやしくも入場料金を徴収して演劇等を催す以上その場所の本来の目的の如何及び施設の有無にかかわらず、すべて同条項にいう演劇等を催す場所にあたるものと解せられるから、原判決が判示柏崎小学校講堂で判示演劇が開催された事実を認定し、これに対して右条項を適用したことはまことに相当であつて、原判決には、所論のように、法律の解釈を誤まつた違法はないし、又判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認もないから、論旨は理由がない。

同第三点について。

しかし、本件前進座の演劇が、所論のように日本共産党の文化運動であり、演劇運動であり、広義の政治活動であつて、営利の目的がなかつたとしても、昭和二十三年七月七日法律第百十号地方税法第十三条、第十四条に徴すれば、同法においては、演劇等の催物が営利を目的とするものかどうかを全然区別することなく、いやしくも入場料金を徴収するものである以上、その入場は入場税課税の対象となるものであることが明らかであり、又このことは憲法第二十五条第一項の規定する国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を犯すものではないから、原判決には所論のような事実誤認又は違法はなく、論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 河本文夫 判事 鈴木重光)

弁護人上村進同牧野芳夫の控訴趣意

第二点原判決は本件の演劇を「柏崎小学校講堂」で「開催するに際し」として、地方税法第七十五条は、入場税は、劇場、映画館、観世物を催す場合、これらに類する場所を規定してあることに依り、小学校講堂に開催された本件に対し入場税を課すべきものとした。しかし、小学校講堂は、本来演劇、映画、観物を催すべき場所でもなく、これらに類似する場所でもないことは明白であり、小学校の講堂で開催された演劇は、課税の対象とならない。小学校講堂をそのままでは施設がないのであるから、類似のものということはできない。依つて、原判決は法律の解釈を誤つているか、或いは重大な事実誤認であるかであつて、破棄を免れないものである。

第三点入場税は、その本質において旧興業税と同じものであつて、営業者としての興業即ち営利を目的とする催しにのみ課すべきものであつて、本件の前進座の演劇は、日本共産党の地方文化の向上のための文化運動であつて、又演劇運動であつて、広義の政治活動である。故にこれは営利でないこと明白である。

右は証拠物として出ているプログラムによつて明かである。

この点において、原判決は事実の誤認があると同時に、憲法第二十五条に「すべて国民は……文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定するところの最低の文化生活の一つとしてなされた演劇を、営利的な興業と解したのは右憲法の条項を無視した違法の判決で破棄を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例